野生司香雪画伯が100年は持つと信じて描いた壁画は、今でも描かれた時のままの厳しいインドの自然環境の中にあり、次第に経年劣化、特に剥落などが進行してきました。
また雨漏り被害にも会いましたが、今では東南アジアの国の仏教徒が奉仕で建物の修繕を続けています。そして芸術作品でもある壁画の剝落止め、保存修理はぜひとも作者の精神を受け継ぐ日本の手でと訪れる日本人に長年呼びかけてきたといいます。そこで私たちはその期待に応え、壁画を少しでも長く後世に伝えるために日本の優れた文化財保存修理専門家にお願いしその実現を図ります。他の国からの申し出もあるといわれていますが、これは任せることのできない在外の日本美術、文化財の保全でもあります。
今回のプロジェクトでは香雪の母校、東京藝術大学の文化財保存修理の教官に指導を頂き、令和元から2年度の2カ年3期、74日間程度をかけて地味な剥落止め作業を実施します。また合わせて保全作業としての壁画の記録保存、今から30数年前の制作から50年後頃に撮影された壁画写真のデジタル資料化と、現在の壁画のデジタル記録保存をめざします。
今回の保存修理、剥止めは、これで終わりではなく、これが始まりです。歴史に恥じない作業を実施し、大切な芸術作品の壁画を後世に引き継ぎます。