サールナートの壁画保全実現に向けて
インド仏教四大聖地サールナートの初転法輪寺に、戦前、日本の野生司香雪画伯が日印の民間文化交流として描いた仏伝壁画があります。今ではアジャンターと共にサールナートの仏伝として国内外に知られ、世界中から観光客や仏教徒が見学に訪れます。
しかし、83年前、昭和11年に完成した壁画は今では経年劣化が進み、寺院では訪れる日本人に画伯の精神をつぐ日本人の手でぜひ剥落止めをと長年呼びかけてきました。
この壁画について、高名なインド哲学者中村元博士は世界の人々の精神に働きかける大切な壁画として高く評価され、またシルクロードの仏教遺跡を巡られた日本画家平山郁夫画伯は世界の文化遺産と評価、共にその保存に強い関心を持っておられました。
聞くところによると近年、壁画の傷みを心配する東南アジアの仏教団体からも保全修理の申し出もあるが幸いに寺院側ではこれは単なる仏画ではなく日本人の描いた芸術作品として認識され、日本の手での作業を熱望しておられます。私達日本人はその思いを受け、文化財修復技術先進国としても外国の方々の手にゆだねることはできません。
そこで3年前に私たちは非力ですがまずは「野生司香雪画伯顕彰会」を結成し、準備を整えた後、皆様にご寄付をお願いし、寺院のご希望に答える運動を起こそうと考えました。そしてそのために3度寺院を訪ね、ご住職、後に寺の所有者インド大菩提会のゼネラル・セクレタリィー(総書記)になったベン・P・シーワリー師と協議を重ね、また師も来日し我々と協議、その結果、今年度から2カ年をかけ、3期、延べ74日間、剥落止め作業に文化財修理の専門家たちを派遣させて頂き、また合わせて保全の一環としての古写真のデジタル資料化及び現状記録保存を行い、後世に伝えることにしました。
最後に、私たち顕彰会には信用もありません。そこで香雪画伯、壁画揮毫渡印のために関係した関係者や機関に数年をかけてご相談し、後援、協賛、協力をお願いしました。また、募金の受け入れ窓口は、平山郁夫画伯が生前に創設された(公財)文化財保護・芸術研究助成財団が引き受けて下さり、ご寄付に対して個人、会社共に税制上の優遇が受けることができることになりました。
プロジェクトの対象
①対象壁画『釈尊一代記』
1936 (昭和11)完成 (日本画・全長約44㍍、高約4.3㍍)
作者 野生司(のーす)香(こう)雪(せつ) (本名述太1885(明治18)~1973(昭和48) 香川県生、香川県工芸学校、東京美術学校、1918(大正7)アジャンター壁画模写に参加、1932(昭和6)~1936(昭和11)初転法輪寺仏伝揮毫、日本美術院院友)
②所在地
インドウッタル・プラデシュ州 ワーラナシー(ベナレス)市 サールナート。仏教四大聖地の一つ。ブッダガヤで悟りを開いた仏陀が5人の弟子に初めて説法をした地。日本では鹿野園として知られる。
③寺院名
初転法輪寺 (香雪命名 ムーラガンダクティ・ビハーラ)1931(昭和6)~
④管理団体
インド大菩提会 (マハーボディー・ ソサエティ オブ インディア)
1891(明治24)~
仏教の途絶えたインドでの仏教再興を志すスリランカ人のダルマパーラが創設した団体。日本や欧米に働きかけブッダガヤを買い取る運動を展開したが成功せずコルカタに本部を置き活動しサールナートに初転法輪寺を開いた。現在インドやスリランカ、その他海外に支部等があり、世界的に知られる団体。
本部 Kolkata Bankim Chatterjee Street 4A Sri Dharmarajika Chetiya Vihara
創設者 アナガーりカ・ダルマパーラ スリランカ人・1864~1933
(今回の窓口) General Secretary(総書記) ベン・P・シーワリー師
プロジェクトの内容
3つのプロジェクトの実行
①剥落止め ②古写真のデシタル資料化 ③壁画デジタル記録保存
①剥落止め (保存修理・寺院側の意向による剥落止めに限定)
経年劣化が進行中の壁画に対して、今回は寺院側が希望する保存修理、「剥落止め」の作業のみを実施します。したがって、欠落部分の補彩等の作業は行いませんので、地味な作業になりますが、壁画の保全、保存には効果が大いに期待されます。
作業は、堂内には冷暖房設備もなく、香雪画伯が描いた時と同じ条件での作業になりますので、自然環境の良いインドの冬の季節に東西南3壁をそれぞれ1期として3期に分けて実施します。
作業日程(予定) 合計74日間(予定) ―3期で実施―
・【前期】2019(令和元)年度 2019年 11月下~12月下旬頃 (26日間) 東壁
・【後期】2020(令和2年度
(1次) 2020年 11月下旬~12月下旬頃 (26日間) 西壁
(2次) 2021年 1月下旬~ 2月中旬頃 (22日間) 南壁
②壁画古写真のデシタル資料化
壁画完成後50年1987経った1987(昭和62)年頃にプロの写真家が撮影したカラー写真のネガがあります。その写真を作家に依頼し、デジタル化作業を行い再生、今後の保存修理の参考資料として保存活用できるようにします。
③壁画デジタル記録保存
現在の壁画の状態を、文化財記録保存の立場から、スキャナーを使用して 記録する予定です。今後考えられる経年劣化の保存修理事業の参考資料としてだけではなく、寺院側での多様な活用にも対応できます。過剰な対応とも思われますが、文化財の破壊さえも考えられる先の読めない現代社会の中では必要な文化財保護活動と考えています。
④事業の優先順
募金により実施する関係上、最善はつくしますがその達成状況により、①→②→③の順に実施します。
但し、①、②の事業については万難を排して必ず実施します。③についても同じですが募金未達成時にはデシタル写真記録に変更して対応します。
プロジェクトの監修・施工
監 修 木島 隆康 東京藝術大学 名誉教授 (大学院 保存修復油画研究室)
施 工 ㈲彩色設計 ( 代表 小野村 勇人)
今回のプロジェクトでは、募金の成否とともに、日本の優れた文化財保存技術者を派遣することができるかどうかが要でした。
計画段階から国の関連機関や専門家の門を叩き、指導を頂いたが、結局最終的にはどこまで行っても民間の文化交流事業の域を出ることはできませんでした。事を成就させるためには結局香雪画伯の母校、東京芸術大学の文化財修復の専門教官に事の顛末をお話して、そのご指導を仰ぐことにしました。そして、渡印する技術集団として、京都の㈲彩色設計の小野村勇人氏を紹介され、面会、事業内容の重大さをご理解いただき協力、渡印していただくことになりました。
その後、コンクリート壁に描かれたという壁画の特殊性も考慮し、壁画の保存技術に詳しい木島隆康名誉教授に参加いただき、監修、指導をお願いすることにしました。
剥落止め作業について
剝落止め作業の対象はコンクリート壁に描かれた日本画という特殊な壁画です。
①壁画は、当初整えられていた壁面をはがして、コンクリート面を出し、その上に直接、日本画を描く技法を駆使して描かれています。
②顔料は日本画家、日本の代表との画伯のこだわりから日本から持参した岩絵具やニカワを使用しました。
③制作当初にコンクリートからの灰汁などの影響から変色が発生。その対策を日本の学者に相談するなどして克服しました。
④現在に至るまでの間、何度か外国人や日本人の手で補修が行われ多様です。
⑤今回は、インド大菩提会側の意向で、剥落止めのみを実施します。
⑥したがって現在、剥落してコンクリート壁面が露出した部分が散見されますが、そのままの状態で次の保存修理に委ねられることになります。
⑦今回の作業期間中も毎日世界中からの見学者が訪れてくるために寺院は閉じられません。したがって、保全修復作業は見学されながらの作業になります。
プロジェクトの組織及びご協力団体
①実行団体
野生司香雪画伯顕彰会 会長 生田要助 顧問 南澤道人
〒761-8077 香川県高松市出作町162-36 TEL:087-889-0330 FAX:087-888-0836
HP:https://nosu.info/
=プロジェクトお問い合わせ先=
携帯:090-3186-2069 (不通の場合TEL:087-889-0330)
FAX:087-888-0836
E-mail:nosukosetsu@gmail.com
②後援・協賛等
・後援 (公財)日印協会、(公財)中村元東方研究所、(学)淑徳学園、(学)武蔵野大学、インド大使館、香川県
・協賛 (公財) 仏教伝道協会
・特別協力 (公財) 文化財保護・芸術研究助成財団
・協力 ㈱トラベルサライ、㈲彩色設計、ディスカバー インディア クラブ(DIC)